多焦点眼内レンズが向かない人

このページで分かること

  • 多焦点眼内レンズを選ぶ時の注意点とその理由
  • もし注意が必要な場合、どんな他の選択肢がある? 後悔しないレンズ選びの進め方

多焦点眼内レンズを選ばない方がいい人は? 特徴をチェック

白内障の手術を考え始めると、「できればメガネなしで暮らしたいな」と思って、遠くも近くも見えるようになる「多焦点眼内レンズ」に興味を持つ方は多いです。まるで夢のようなレンズに聞こえるかもしれませんね。

でも、この多焦点眼内レンズ、残念ながら誰にでも一番良い選択とは限りません。「期待していた見え方と違う」「前より不便になったかも」と後悔しないためには、ご自身の目の状態や生活スタイル、どんな風に見たいかという希望が、多焦点眼内レンズの特徴と合っているか、手術の前にしっかり考えることがとても大切です。

この記事では、「多焦点眼内レンズを選ぶ時に、特に慎重に考えた方が良いのはどんな人か?」という疑問に注目し、その具体的な特徴や理由、そしてもし注意が必要な場合の他の選択肢について、分かりやすく説明します。ご自身が多焦点眼内レンズに合っているかを見極め、納得して治療を選ぶためのお手伝いができれば嬉しいです。

多焦点眼内レンズの仕組みと特徴

多焦点眼内レンズが、なぜ特定の人には慎重な検討が必要になるのか。それを理解するために、まずはレンズの基本的な仕組みと特徴を簡単に見てみましょう。

単焦点レンズとの違い ― 光を分ける仕組みがメリットとデメリットを生む

白内障手術でよく使われる「単焦点眼内レンズ」は、ピントが合う距離が1ヶ所だけ(普通は遠くか、近くかを選びます)。例えば、遠くにピントを合わせたレンズを入れた場合、近くを見るためには老眼鏡が必要になります。

一方、「多焦点眼内レンズ」は、レンズに特別な工夫(表面のデザインなど)がしてあり、目に入った光を「遠くを見るための光」「近くを見るための光」(レンズによっては「中間を見るための光」も)に分けます。こうして、いくつかの距離にピントを合わせようとするのです。これが、「メガネを使う頻度を減らせる」という一番のメリットの理由です。

しかし、この「光を分ける」仕組みが、同時にデメリットも生み出します。1つの距離に光を全部集める単焦点レンズと比べると、それぞれの距離に届く光の量は少なくなります。これが、見え方の質(例えば、色の濃淡や明暗をはっきり見分ける力=コントラスト感度)が少し落ちたり、このレンズ特有の見え方(ハロー・グレアという現象)につながったりする可能性があるのです。

つまり、多焦点眼内レンズは、「便利さ(複数の距離にピントが合う)」と「見え方の質・特有の現象」の間で、どちらかを優先すればどちらかが少し劣る、という関係(トレードオフ)があるレンズと言えます。ただし、この関係の度合いは、すべての多焦点レンズで同じではありません。レンズの設計(光の分け方、ピントが合う範囲を広げる技術(EDOF)があるかなど)によって、コントラスト感度の低下やハロー・グレアの程度は変わってきます。最近のレンズの中には、これらの問題をできるだけ少なくするように作られているものもあります。

ハロー・グレアとは

多焦点眼内レンズのデメリットとしてよく聞かれるのが「ハロー・グレア」です。

  • ハロー: 夜に街灯や車のヘッドライトなどを見たとき、光の周りに輪っかのような光が見える現象です。「光輪(こうりん)」とも言います。
  • グレア: 光がギラギラしてまぶしく感じたり、にじんで見えたりする現象です。

これらは、レンズの仕組み上、ピントが合っていない距離の光がにじんだり、邪魔し合ったりすることで起こります。特に、暗い場所でひとみ(瞳孔)が開くと感じやすくなる傾向があります。

実際に体験した方からは、こんな声が聞かれます(※感じ方には個人差があります)。

「夜に車を運転していると、対向車のライトが前よりまぶしく、周りににじんで見えるようになった。慣れるまで少し時間がかかった」

「信号機の光の周りに、うっすらと輪が見えることがある。生活で困るほどじゃないけど、最初は気になった」

「単焦点レンズの時のようなクッキリした感じとは少し違って、全体的にソフトな見え方になった気がする」

多くの場合、これらの現象は手術してすぐの頃によく見られますが、時間が経つにつれて脳が新しい見え方に慣れてきて(これを脳内適応と言います)、だんだん気にならなくなったり、感じなくなったりすることが多いと言われています。ただ、どれくらいで慣れるか、どの程度気になるかには、かなり個人差があります。

向かない人チェック①【目の病気・形編】

多焦点眼内レンズの性能をしっかり引き出すためには、目そのものが健康であることが望ましいです。白内障以外に目の病気がある場合や、目の形に特徴がある場合は、多焦点眼内レンズが合わない、あるいは選ぶ際に慎重な判断が必要になることがあります。

進行した緑内障や、中程度以上の網膜の病気がある場合、なぜ慎重な検討が必要?

緑内障(目の神経の病気)や網膜の病気(例えば、糖尿病が原因の網膜症、加齢黄斑変性、網膜前膜など、光を感じるフィルム部分の病気)を抱えている場合、特に病気が進行していたり、状態が中程度以上だったりする場合は、多焦点眼内レンズを選ぶのは慎重に考える必要があり、一般的にはあまり勧められません。主な理由は2つあります。

① 色の濃淡や明暗を見分ける力(コントラスト感度)の低下

緑内障や網膜の病気は、それ自体が見る力(特にコントラスト感度)を低下させます。多焦点眼内レンズも、光を分ける仕組みのため、単焦点レンズに比べてコントラスト感度が少し下がる傾向があります。病気による低下とレンズによる低下が重なると、特に薄暗い場所で物が見えにくく感じることがあります。

② 将来の検査や治療に影響が出る可能性

これらの病気は、将来的に視野(見える範囲)の検査や、目の奥の状態を詳しく調べるOCT検査、レーザー治療、目への注射(硝子体注射)などが必要になることがあります。多焦点眼内レンズの複雑な構造が、これらの検査結果の判断や治療の邪魔になる可能性が指摘されています。

ただし、「合うか合わないか」は単純な二択ではありません。ごく初期の緑内障や軽い網膜の病気で、状態が安定している場合など、患者さんの状況や希望、そしてどのレンズを検討するかによっては、慎重に判断した上で選択肢になる可能性もゼロではありません。大切なのは、病気の「種類」「重さ」「安定具合」を眼科医が正確に評価し、レンズを選ぶことのリスクとメリットを総合的に判断することです。「絶対ダメ」といった言葉に惑わされず、ご自身の具体的な状態について、医師とよく相談することが非常に重要です。

ドライアイ・目の中の濁り・ひとみが小さい

上で挙げた病気以外にも、次のような目の状態が多焦点眼内レンズの適性や見え方の質に影響することがあります。これらは単なる補足ではなく、レンズ選びの決定的な要因になることもあります。

ひどいドライアイ

涙は目の表面でレンズのような役割をしていて、見え方に大きく関わっています。ひどいドライアイがあると、涙の状態が不安定になり、多焦点レンズが本来の性能を発揮できず、かすみや視力が安定しない原因になることがあります。手術前にドライアイの治療をしっかり行うことが大切です。また、ドライアイ自体が、レンズが原因で起こるコントラスト感度の低下や視力の変動を悪化させる可能性もあります。

目の中のゼリー状の部分(硝子体)の濁り

目の中を満たしているゼリー状の組織(これを硝子体(しょうしたい)と言います)に濁りがある場合、特に近視が強い方に見られるような濁りが強いと、多焦点レンズを通った光がさらに散らばってしまい、「すりガラス越しに見るような不明瞭な見え方(Waxy Vision)」になることがあります。

ひとみ(瞳孔)が小さい

多焦点眼内レンズは、レンズの中心部分と周りの部分で光の分け方を変えているタイプが多いです(これを瞳孔依存性と言います)。ひとみ(黒目の真ん中の部分、瞳孔(どうこう))が小さい(例えば直径3mm未満など)と、レンズの周りの部分からの光が十分に入らず、特に暗い場所で遠くが期待通りに見えない可能性があります。また、明るい場所と暗い場所でひとみの大きさが極端に変わらない場合、見え方のバランスを取るのが難しくなることもあります。

これらの状態は、白内障手術前の検査でチェックされます。いくつかの要因が重なると、予想以上に見え方が悪くなる可能性もあるため、ご自身の目の状態について、医師からよく説明を聞くことが大切です。

向かない人チェック②【生活スタイル&お仕事編】

多焦点眼内レンズの見え方の特徴は、毎日の生活やお仕事の内容によって、満足度が大きく変わることがあります。「どんな見え方を一番大切にしたいか」は人それぞれだからです。

夜間の運転が必須の人は要注意 ― 光のにじみと安全性の問題

多焦点眼内レンズで特に注意が必要な点として、夜間の運転への影響がよく挙げられます。先ほど説明したハロー・グレア(光の輪やまぶしさ、にじみ)は、暗い中で対向車のヘッドライトや街灯を見たときに特に感じやすくなります。

  • ハロー(光の輪): ライトの周りに輪が見えることで、物までの距離感がつかみにくくなる可能性があります。
  • グレア(まぶしさ・にじみ): ライトがギラギラしたり、にじんで広がって見えたりすることで、歩行者や標識などが見えにくくなる危険性があります。

タクシーやトラックの運転手さんなど、お仕事で日常的に夜間運転をする方や、生活の上で夜の運転が欠かせないという方は、この点を特に慎重に考える必要があります。多くの方は時間が経つにつれて慣れていきますが、ハロー・グレアの程度や慣れるまでの期間には個人差があり、安全に関わる問題でもあるため、単焦点レンズや後で説明するEDOFレンズなど、ハロー・グレアが比較的少ないとされる他の選択肢を優先することも考えてみる価値があります。

細かい手元作業が多い人への影響

非常に細かいものを長時間、高い精度で見続ける必要があるお仕事や趣味を持つ方も、多焦点眼内レンズの特性が合わない可能性があります。

色の濃淡を見分ける力(コントラスト感度)のわずかな低下

多焦点レンズは、単焦点レンズに比べて、わずかにコントラスト(色の濃淡や明暗の差)が低下する傾向があります。非常に細かい線や微妙な色の違いを見分ける作業では、この少しの差がストレスになる可能性があります。

特定の距離でのピントの合う範囲(焦点深度)の限界

多焦点レンズは遠く・近く(・中間)にピントが合いますが、その「ピントが合っていると感じる範囲(焦点深度)」は、単焦点レンズほど深く(広く)はありません。特定の非常に近い距離で、極めて高い精度を保ち続ける作業には、単焦点レンズを入れて手元用のメガネを使う方が、よりはっきり見えて疲れにくいと感じる場合があります。

もちろん、多焦点レンズでも十分満足できる方もいますが、「最高レベルの見え方の質」を特定の細かい手元作業で求める場合は、単焦点レンズ+作業用メガネという組み合わせの方が合っている可能性があります。大切なのは、単にお仕事の種類だけでなく、「どのくらいの距離で」「どんな明るさの場所で」「どれくらいの精度が」必要なのかを、医師に具体的に伝えることです。

中間の距離をどれだけ重視するかで満足度が変わる

多焦点眼内レンズには、遠くと近くの2ヶ所にピントが合う「2焦点タイプ」、遠く・中間・近くの3ヶ所にピントが合う「3焦点タイプ」など、様々な種類があります。ご自身の生活の中で、どの距離をよく見るか、どの距離をメガネなしで見たいかによって、選ぶべきレンズの種類や、そもそも多焦点が向いているかが変わってきます。

中間の距離の重要性

最近では、パソコン作業、料理、カーナビの確認など、「手元(30~40cm)」と「遠く(5m以上)」の間にある「中間の距離(60cm~1m程度)」の視力が重視されるようになっています。3焦点レンズはこの中間距離にも対応していますが、2焦点レンズでは中間距離が見えにくい場合があります。

生活スタイルの考慮

例えば、外での活動が多く、遠くの景色やスポーツ観戦を楽しみたい方は遠くの視力を重視するでしょう。一方、室内でのデスクワークや読書が中心の方は、近くや中間の距離の視力が重要になります。

ご自身の生活スタイルを振り返り、「どの距離をメガネなしで見られると一番生活が快適になるか」を具体的にイメージして、医師に伝えることが、レンズ選びの失敗を防ぐカギとなります。特定の距離(例えば遠くだけ、あるいは近くだけ)の見え方を最優先したい場合は、単焦点レンズの方が満足度が高くなることもあります。

向かない人チェック③【性格・期待・心理編】

多焦点眼内レンズへの満足度には、その方の見え方に対する期待の大きさや、新しい見え方に慣れる力といった心理的な面も影響すると言われています。

期待しすぎないこと、現実的な理解が大切

多焦点眼内レンズは「メガネから解放される」という良い点が強調されがちですが、全てにおいて完璧なレンズというわけではありません。手術を受けるにあたっては、そのメリットだけでなく、起こるかもしれないデメリットや限界について、現実的に理解しておくことが非常に重要です。

完璧ではない見え方

多焦点レンズはいくつかの距離にある程度ピントが合いますが、単焦点レンズのように「1ヶ所に完璧にピントが合った」状態と比べると、わずかにシャープさが劣る可能性があります。また、ハロー・グレア(光の輪やまぶしさ)といった特有の現象を、特に手術してすぐの頃に感じる可能性があります。「どんな状況でも、若い頃のように完璧に見えるはず」と期待しすぎていると、手術後のわずかな不便さや見え方の特性が許せなくなり、不満につながる可能性があります。

見え方の感じ方には個人差がある

同じレンズを入れても、見え方の感じ方や満足度は人それぞれです。わずかな光のにじみやコントラストの低下が気になる方もいれば、全く気にならない方もいます。これは良い悪いの問題ではなく、個人の感じ方の違いです。

大切なのは、ご自身の性格(細かいことが気になるタイプか、おおらかなタイプかなど)を少し客観的に見つつ、特定の性格だから合う・合わないと単純に考えるのではなく、誰にでも起こりうるレンズの光の特性(メリットとデメリット)を理解し、ご自身がそれを許せる範囲内かどうかを考えることです。「完璧ではないかもしれないけど、メガネなしで便利になるメリットの方が大きい」と考えられるかどうかが、満足度を左右する一つの要因となります。

“慣れるまでの期間”を受け入れられる? 脳が慣れる仕組みを理解しよう

多焦点眼内レンズを入れた直後から、すぐに快適に見えるようになるわけではありません。多くの場合、「脳が新しい見え方に慣れる」ための期間、いわゆる「脳内適応(のうないてきおう)」が必要になります。

脳内適応のイメージ:

1.  新しい見え方情報が入ってくる

多焦点レンズを通して、遠く・近く(・中間)の情報が同時に網膜(目のフィルム)に映ります。最初は、脳がどの情報に注目すればいいか混乱し、物が二重に見えたり(ゴースト)、ハロー・グレアを感じたり、ピントが合いにくいと感じることがあります。

2.  脳が見る情報を選択する

時間が経つにつれて、脳は見たい距離に応じて必要な情報(例:遠くを見たい時は遠くの映像)を選び、不要な情報(例:同時に映っている近くの映像)を無視することを学習します。

3.  無意識に最適化される

このプロセスが繰り返されることで、脳は無意識のうちに、状況に応じて一番良い焦点を選び、邪魔な見え方を「無視」できるようになります。これにより、徐々に違和感が減り、自然な見え方に近づいていきます。

この慣れるまでにかかる期間は、数週間から数ヶ月、時には半年以上かかることもあり、個人差が非常に大きいです。また、年齢とともに脳が変化に対応する力(脳の可塑性(かそせい))が少しずつ落ちる傾向があるため、一般的に高齢になるほど慣れるのに時間がかかると言われています。

手術後しばらくの間、見え方に多少の違和感があったとしても、「こういうものなんだ」「だんだん慣れていくだろう」と、ある程度気長に待つことができるかどうかも、満足度に関わる要因の一つと言えるでしょう。

多焦点コンタクトで合わなかった人は要注意! 似た体験を避けるには

以前に多焦点コンタクトレンズを試したけれど、「見え方に満足できなかった」「違和感が強くて続けられなかった」という経験がある方は、多焦点眼内レンズを選ぶ際にも慎重になった方が良いかもしれません。

もちろん、コンタクトレンズと眼内レンズでは、素材やデザイン、目の中での位置などが違うため、必ずしも同じ結果になるとは限りません。しかし、光をいくつかの焦点に分けるという基本的な仕組みは似ています。

コンタクトレンズで感じた不満(例えば、ハロー・グレアが気になった、コントラストが低く感じた、ピントが合いにくかったなど)は、多焦点眼内レンズでも同じように感じる可能性があります。特に、見え方の「質」にこだわりが強く、コンタクトレンズでの経験が良くなかった場合は、その時の不満点を医師に具体的に伝え、同じような体験を繰り返さないために、単焦点レンズやEDOFレンズなど、他の選択肢を検討するのが賢明かもしれません。ただし、これは絶対にダメということではなく、あくまで過去の経験を踏まえて慎重に考えましょう、ということです。

向かない人への代わりのレンズや補助手段の選択肢

ここまで読んで、「自分は多焦点眼内レンズを選ぶのは慎重になった方が良いかも…」と感じた方も、がっかりする必要はありません。白内障手術で使う眼内レンズには、多焦点以外にも様々な選択肢があり、ご自身の希望や生活スタイルに合わせて一番良い見え方を探すことができます。

見え方の鮮明さ(コントラスト)優先なら単焦点+メガネの組み合わせが定番

「とにかく見え方の質、クリアさを一番に考えたい」「ハロー・グレアはできるだけ避けたい」という方には、やはり「単焦点眼内レンズ」が最も信頼できる選択肢です。

メリット

光を1ヶ所に集中させるため、色の濃淡や明暗をはっきり見分ける力(コントラスト感度)が高く、非常にシャープでクリアな視界が得られます。ハロー・グレアもほとんど感じません。健康保険が適用されるため、費用負担も抑えられます。

デメリット

ピントが合う距離が1つだけなので、選んだ距離以外を見るためにはメガネが必要になります(例:遠くに合わせれば老眼鏡、近くに合わせれば遠くを見るためのメガネ)。

考え方

手術で遠くにピントを合わせ、日常生活の多くの場面を裸眼で過ごし、本を読んだりスマホを見たりするときだけ老眼鏡を使う、というスタイルは非常に合理的で、多くの方が満足されています。「メガネをかけること」に抵抗がなければ、最も確実で質の高い見え方を得られる選択肢と言えます。

ハロー・グレアを抑えたいならEDOF(イードフ:焦点深度拡張)レンズ

「メガネはできるだけ減らしたいけど、ハロー・グレアは気になる…」という方にとって、有力な選択肢となるのが「EDOF(焦点深度拡張)レンズ」です。

仕組み

EDOFレンズは、多焦点レンズのように光をはっきりいくつかの焦点に分けるのではなく、ピントが合う範囲(焦点深度)をなだらかに広げることで、遠くから中間距離(レンズによっては近くまで)をある程度続けて見えるように設計されています。

メリット

多焦点レンズに比べて、ハロー・グレアの発生が少なく、コントラスト感度の低下も抑えられる傾向があります。遠くから中間距離(パソコン作業など)までの見え方が自然で、メガネを使う頻度を減らすことが期待できます。

デメリット

近く(読書する距離など)の見え方は、多焦点レンズ(特に3焦点)に比べるとやや弱い場合があります。細かい文字を読む際には、弱い老眼鏡が必要になることがあります。また、比較的新しい技術であり、選定療養(健康保険+自己負担)や自由診療(全額自己負担)となることが一般的です。

位置づけ

単焦点と多焦点の「中間」的な特徴を持つレンズと言え、見え方の質と便利さのバランスを取りたい方に向いています。なお、技術の進歩により、EDOFと多焦点の区別はやや曖昧になってきており、両方の特徴を併せ持つような「ハイブリッド型」のレンズも出てきています。

片目ずつピントをずらす「モノビジョン」という方法も

「モノビジョン」とは、片方の目(主に利き目)に遠くにピントが合う単焦点レンズを入れ、もう片方の目に近く(または中間)にピントが合う単焦点レンズを入れることで、両目で見たときに遠くも近くもある程度見えるようにする手法です。

メリット

単焦点レンズを使うため、ハロー・グレアがなく、コントラスト感度も良好です。健康保険の適用範囲内で、メガネへの依存度を減らせる可能性があります。

デメリット

両目で同時にはっきり見えるわけではないため、慣れるまで違和感を感じたり、物の奥行きや立体感を感じる力(立体視)が低下したりすることがあります。左右の視力差が大きいと、頭痛や目の疲れ(眼精疲労)の原因になることも。すべての人に合うわけではなく、手術前にコンタクトレンズなどで試してみて、自分に合っているか確認することが重要です。

うまくいく条件

左右の視力差に脳がうまく慣れること。細かい作業や、精密な立体感が求められる作業には向かない場合があります。

モノビジョンは、多焦点レンズが合わない場合の有効な代わりの方法となり得ますが、合う・合わないがはっきり分かれるため、事前に適性をしっかり確認することが不可欠です。

コストと保険制度を再確認 ― “全額自己負担”の壁をどう考える?

眼内レンズを選ぶ上で、見え方や適性だけでなく、費用も重要な判断材料になります。特に多焦点眼内レンズやEDOFレンズは、健康保険が適用されないケースが多く、費用負担が大きくなる可能性があります。

追加費用を払っても、割に合わないかもしれないケース、保険適用範囲でできる工夫

次のような場合は、高額な追加費用を払って多焦点レンズなどを選ぶことが、必ずしも費用に見合う効果が得られない(割に合わない)可能性があります。

  • メガネへの抵抗が少ない: もともとメガネをかけることに慣れており、特に不便を感じていない場合。
  • 近くでの作業が非常に少ない: 本を読んだり細かい作業をしたりすることがほとんどなく、老眼鏡を使う頻度が極めて低い場合。
  • 見え方の質を最優先したい: コントラスト低下やハロー・グレアのリスクを少しでも避けたい場合。
  • 将来、目の病気になるリスクが高い: 緑内障や網膜の病気が進行するリスクがあると言われている場合。

もし費用を抑えたい、あるいは多焦点レンズのリスクを避けたいと考えた場合でも、健康保険が適用される範囲内で工夫できることはあります。

  • 単焦点レンズで生活スタイルに合わせる: 例えば、利き目を遠くに、もう片方の目を少しだけ近くに合わせる(弱いモノビジョン)ことで、ある程度メガネを使う頻度を減らすことを目指す。
  • 手術後のメガネを工夫する: 最新の遠近両用メガネ(累進屈折力レンズ)など、高性能なメガネを活用する。

費用はレンズ選びの重要な要素ですが、それだけで決めるのではなく、ご自身の目の状態、生活スタイル、見え方への希望、そしてどれくらいリスクを受け入れられるかを総合的に考えて、医師と十分に相談して決めることが後悔しないためのカギとなります。

まとめ

多焦点眼内レンズは、多くの人にとってメガネを使う頻度を減らす魅力的な選択肢ですが、決して万能ではありません。「自分には慎重に考えた方が良いかもしれない」という可能性を理解し、メリットだけでなくデメリットやリスクも考えることが、手術後の後悔を避けるために不可欠です。

後悔しないレンズ選びのために、以下の3つのステップで進めることをお勧めします。

1.  情報収集と自己分析

まずは、この記事で説明したような多焦点眼内レンズの良い点・悪い点、慎重に考えた方が良いケース、代わりの方法について理解を深めましょう。そして、ご自身の目の状態(医師から指摘されていること)、生活スタイル、見え方への希望、受け入れられるリスク、予算などを客観的に整理します。「自分は何を一番大切にしたいのか?」をはっきりさせることが大切です。

2.  詳しい検査と医師との相談

眼科を受診し、白内障の状態だけでなく、角膜の形、目の奥の病気の有無、ひとみの大きさなど、レンズ選びに必要な詳しい検査を受けましょう。その上で、ステップ1で整理したご自身の希望や心配な点を具体的に医師に伝え、専門的なアドバイスを受けます。疑問な点は遠慮なく質問し、納得できるまで話し合いましょう。様々な種類のレンズを扱っている、経験豊富な医師に相談することも有効です。

3.  メリットとデメリット(リスク)の比較検討

医師からの説明や検査結果をもとに、多焦点眼内レンズ(または他の検討中のレンズ)を選んだ場合のメリット(便利になること)と、デメリットやリスク(ハロー・グレア、コントラスト低下、合わない可能性、費用負担など)を天秤にかけます。代わりの方法(単焦点+メガネ、EDOF、モノビジョンなど)の良い点・悪い点とも比較し、ご自身にとって最もバランスの取れた選択肢は何かを、最終的に判断します

白内障手術は、多くの場合、一度行ったらやり直しがきかない大切な決断です。「流行っているから」「勧められたから」ではなく、ご自身の目と生活に真剣に向き合い、情報をよく考え、医師としっかり話し合うことで、きっとあなたにとって一番良い選択が見つかるはずです。